お惣菜屋さんをやっていたおばあちゃんのナポリタン
私のおばあちゃんは昔、お惣菜屋さんを営んでいたらしい。
らしい、というのは私が生まれる前の話だから。
お惣菜屋さんを営んでいたのは人伝いに聞いた。
小学生の頃、友達のおじいちゃんに「あんたのとこのおばあちゃんがやってたお惣菜屋さん、本当においしくてお世話になってた」と。
父にも確認した。「そうだよ」しか言わなかったけど。
なんだか嬉しかった。それに妙に納得した。
だっておばあちゃんのごはんは何を食べても美味しかったから。
おばあちゃんのごはんを食べる機会はたくさんあった。
母の産休がおわり保育園に入る前の毎日のお昼ごはんとおやつ、小学生の夏休みや冬休みのお昼ごはんとおやつ、お正月・お盆に親戚で集まったとき。
おにぎり、からあげ、ふわふわのだし巻き卵、とろとろのお出汁がかかったにゅうめん、ちいさめのハンバーグ、甘い赤飯、甘くない赤飯、ちらし寿司、ひとくちドーナツ、自家製リンゴジャムがたっぷりのったトースト
なかでも大好きだったのはナポリタンだった。
太めのもちもちした麺にシャキシャキのピーマンと玉ねぎ、柔らかいにんじん、パリっとした薄切りのウインナー。
ケチャップ味はお砂糖が入っていて甘め。隠し味は仕上げの生クリーム。
普通のナポリタンよりもとろとろでつやつやの汁気があった。
こんなに鮮明に思い出せるのに再現は難しい。
いまでも試行錯誤を繰り返してる。
試行錯誤をするたびに遠ざかったり近づいたりの一進一退。
そのたびおばあちゃんが恋しくなる。
なにが足りないんだろう。なにが多いんだろう。
聞きたいな、会いたいな、食べたいな。
たった一度だけ、近いものができたことがあった。
とろとろの汁気、甘いケチャップ味。野菜の食感だけは再現出来なかったけど…。
夫は「今まで食べたスパゲッティの中で一番おいしい!」と絶賛してくれた。
まだ見ぬ息子もきっと同じことを言ってくれるはず。
そうだと、お母さんうれしい。